『6才のボクが、大人になるまで』
『6才のボクが、大人になるまで』(2014年 アメリカ映画)
■あらすじ
テキサス州に住む6才の少年メイソン。キャリアアップのために大学で学ぶと決めた母に従ってヒューストンに転居した彼は、そこで多感な思春期を過ごす。アラスカから戻って来た父との再会、母の再婚、義父の暴力、そして初恋。周囲の環境の変化に時には耐え、時には柔軟に対応しながら、メイソンは静かに子供時代を卒業していく。やがて母は大学の教師となり、オースティン近郊に移った家族には母の新しい恋人が加わる。一方、ミュージシャンの夢をあきらめた父は保険会社に就職し、再婚してもうひとり子供を持った。12年の時が様々な変化を生み出す中、ビールの味もキスの味も失恋の苦い味も覚えたメイソンは、アート写真家という将来の夢をみつけ、母の手元から巣立っていく。
(公式HPより)
■評価
90点
■感想(以下ネタバレ)
邦題が本当にひどいと思うが、これに関して批判を述べるとキリがないので、「原題は"BOYHOOD"である!」という一言だけに留めておく。
とんでもない映画であった。この映画は6才の少年とその家族の変遷の物語を、同じ主要キャストで12年間に渡り撮り続けた画期的なものである。NYタイムズでは、これまでどんな映画作家も試みたことのない斬新な製作スタイルと、歳月の力を借りながら少年の成長の過程を画面に焼き付けていくみずみずしい作風により、「21世紀に公開された作品の中でも並外れた傑作の1本」と評されたという。監督の発想と粘り強さには感心せざるを得ないし、私はこの作品こそ2015年のアカデミー賞監督賞を(そしてもしかすると作品賞までも)受賞するのではないかと予想している。
ストーリーは一言一句、あらすじの通りである。決して面白味のある物語ではないし、それが3時間弱も続く。退屈に感じる人もいるだろう。(実際序盤で映画館を後にする人もいた)しかし、その3時間という時間があるからこそ、一人の少年が大人になっていく事に感情移入することができるのではないかと思う。
私が特に印象的に感じたシーンは、序盤で少年時代の主人公たちが、当時大流行していた『ハリー・ポッター』シリーズの新刊発売イベントに行くシーンだ。そのシーンはまるでホームビデオのようであったし、あらすじに書かれたようなストーリーには一切干渉しない、一見すると「無意味」であるように思えるシーンであった。しかし、思い返せばこの映画は、そのような「断片」がつぎはぎされてできているように感じた。一人の少年は、大人になるにつれて様々な事を経験する。喜び、悲しみ、怒り、恋、別れ、新たな恋、人との出会い、夢、諦め、気付き……………そもそも人生に一本のストーリーがあるはずもないのだ。この映画は、一見無意味に見える「断片」が積もり積もって人生は進んでいくのだということを教えてくれるように感じた。
”You know how everyone’s always saying, “Seize the moment”? I don’t know why… I’m kind of thinking it’s the other way around. You know, like, the moment seizes us.”
” I know. It’s constant. The moments… It’s just—It’s like it’s always right now, you know?”
最後の台詞。これこそ、"BOYHOOD"の全てであり、私はこの台詞を一生忘れないだろうと思う。
この映画はストーリーも、登場人物も良い意味で「普遍的」である。主人公と同世代の私のような人や、主人公の母のように子育てを終えようとしている人……観る人それぞれが違った観方ができるだろう。この映画がより多くの人々に観てもらえる事を祈っている。
観た日:2015/01/06
観た場所:TOHOシネマズシャンテ
観た人:なし