『つぐない』
『つぐない』(2007年 イギリス映画)
監督:ジョー・ライト
■あらすじ
1930年代、戦火が忍び寄るイギリス。政府官僚の長女に生まれた美しいヒロイン・セシーリア。兄妹のように育てられた使用人の息子・ロビーを、身分の違いを越えて愛しているのだ、と初めて気づいたある夏の日、生まれたばかりの二人の愛は、小説家を目指す多感な妹・ブライオニーのついた哀しい嘘によって引き裂かれることになる。 生と死が背中合わせの、戦場の最前線に送り出されるロビー。彼の帰りをひたすらに待ち、「私のもとに帰ってきて」と手紙をしたため続けるセシーリア。そして、自分の犯した罪の重さを思い知らされるブライオニー。セシーリアとロビーは、再び会えるのか?ブライオニーが罪を贖える日はやってくるのか?三人の運命は、無情な時代の流れの中に呑み込まれていく…。
(Amazonより)
■評価
80点
■感想(以下ネタバレ)
ラブストーリーはあまり好きなジャンルではないので、ビクビクしながら鑑賞したが、今作は単なるラブストーリーではなく複雑な構造を持ったドラマであると感じた。
大きく分けて、この映画は三部構成となっている。第一部は戦前のとある一日が舞台となっており、たった一日の出来事を一時間かけて描いている。セシーリアとロビーが結ばれるのはそのたった一晩だけの出来事であったが、彼らはきっと何年もの間胸に想いを秘めていたのだろうと思わせる尊い愛を感じた。
あらすじによると、彼らの愛はセシーリアの妹ブライオニーがついた哀しい「嘘」によって引き裂かれたとされている。しかし、私はブライオニーは本当に嘘を吐いたのだろうか。文学に親しむ少女のブライオニーは愛や恋にロマンチックな夢を見ていた。だからこそ、卑猥な手紙や、慕っていた男性と自分の姉の官能的な愛の交わりは、彼女にとってはあまりにもショッキングだったのだろう。初めて見せ付けられた「性愛」を受け入れる事ができず、彼女はそれに罪性すら感じてしまった。彼女は慕っていたロビーに裏切られたように感じ、その瞬間彼女の中でロビーは罪人となってしまったのかもしれない。だからこそ、ブライオニーが吐いたのは決して「嘘」などではなく、彼女の中ではそれが真実であったのだ。彼女は無知で、無垢であったからこそ悲劇は起きたのだ。
この物語の真の結末はとても悲劇的で、体がさっと冷たくなるような悲しみを抱いた。ブライオニーの「つぐない」はエゴイスティックであると感じる人もいるかもしれない。セシーリアとロビーがどのような気持ちでその最期を迎えたのか想像すると、救いの無さに愕然とする。そしてその「罪」を背負って生きてきたブライオニーの心を察してもまたつらい気持ちになる。果たしてそれは、彼女が背負うべき、償うべき罪であったのだろうか………
時代や、運命や、人々の意思が悲しく交錯している映画であった。
キーラ・ナイトレイやジェームス・マカヴォイ…出演俳優たちの容姿はそろいもそろって美しく、私の好みの方々ばかりだったので大変目の保養になった。中でも少女時代のブライオニーを演じるシアーシャ・ローナンの美しさには息を飲んだ。シアーシャ・ローナンの出演作『グランドブタペストホテル』や『ラブリーボーン』などを観たことがあったが、私には今作の彼女が一番美しく見える。思春期の少女ならではの不安定で現実離れした美しさだ。じっと見つめられたら別の世界へ行ってしまいそうな真っ青な瞳が印象的であった。